私はだいたい10年ほど(そして今も)、AI とデータのプロジェクトに携わってきましたが、その多くは何年も停滞していたり、プロジェクトに着手する以前の根本的な欠陥を持つものでした。
2010年代、私はAI・データ利活用プロジェクトで、いくつかの「数年続いたが何も成果が出ていない」プロジェクトや、「当初の担当者がいなくなった」プロジェクトを引き継ぎました。
当時、失敗プロジェクトからの学びは一般的に、データの質や量に焦点が当てられていました。しばらく後に、プロセス設計の話が主流になったと記憶しています。仮説がないプロジェクトは失敗する、という話です。
ここでも部分的には同じことを語るのですが、それより私は「なぜ仮説がない無根拠なプロジェクトがやたらと誕生し、そしてそこに固執するのか」が不思議でした。
仮説がないプロジェクトは次のような特徴があり、計画段階ですでに、構造的に失敗が約束されています。
- 手段が決まっている
- データがある
- 予測をすることになっている
- 機械学習を使うことになっている
- 成果が決まっている
- ビジネス上のKPIに連動している
- 合理化の目標値がある
- 成果の数値が、プロジェクトの成功条件や継続条件
- 問題の構造がわかっていない
- 因果関係の仮説を明示できる人がいない
- まだ人間が問題を部分的にも解決していない
つまり、問題解決の手段である、データと分析手法には根拠がありません。それだけならまだいいのですが、加えて、根拠のない手法が数値的な成果を出すことを期待され、かつ、その望みのほぼない成果がプロジェクトのゴールと継続条件に据えられています。
これは例えば、次のようなプロジェクトです。
- 「このデータで何ができるか考えてほしい」
- 「御社のデータと弊社のAIで、人間が思いもよらないようなインサイトを見つけ出します」
- まだ何もわかっていない段階でのデータの収集とAIツールには費用を払ってきたのに、問題の仮説が立ち始め、的を得た追加のデータ収集を始めようとしても、一切予算が立たない
- 手元にあるデータとAIで顧客の離反タイミングを個人単位で予測し、解約をX%減らせば利益が出る(ただし、顧客の離反の分析はほとんどしたことがなく、誰も有効な知識を持たない)
- 上記のようなPoCが数年続いているか、成果が出ないのですぐやめた(私はこれらを「AIガチャ」と心の中で呼んでいます)
このようなリクエストが来たら、要求には応じつつも、プロジェクトの成功条件や予算が決定する前に軌道修正を試みる必要があります。一度プロジェクトの構造が固まってしまうと、後から参加した専門家がこれを覆すことは困難で、プロジェクトの成功は望み薄になるからです。
私はこの問題を、マネジメントにおけるリスクテイキングの姿勢、リスクを踏まえた計画能力、その土台となるデータリテラシーの問題だと捉えています。リスクに対する姿勢がプロジェクトの論理構造を破綻させています。データの文脈だけで議論し、解決できる問題ではありません。
AI・データ利活用のプロジェクトには、問題の理解度とリスクの許容度に応じて、いくつかのシナリオの選択肢があります。
- 問題の構造がわかっていて、人間がすでに部分的に解決している場合:速やかにデータを集め、適切な手法とツールを選んで検証し、合理化に踏み切る。
- 問題の構造がわからないが、目的が明確な場合:問題の理解を深めることを当面のゴールにし、「利益は出ないが価値のある」長期投資プロジェクトとしてどうマネジメントするか、という問題に取り組む。
- 利益が出ないことは一切受け入れられない場合:テーマを環境に左右されにくい一般課題に限定し、ソリューションが成熟するのを待つ。(ただし、後塵を拝するリスクへの対処が必要。)
そもそもリスクをイメージできているでしょうか。データや分析手法は手段です。問題を定義する前に集めたデータは根拠のない手段であり、役に立ちません。
そして、強い目的意識があり、「特定の領域でAIやデータを活用し、競合より優位に立ちたい」のであれば、逆説的ですが、プロジェクトの成果を先送りにする必要があります。むしろ、一般的に取り組まれており、平均的に成功しているテーマこそ、ROIに最大限忠実であるべきです。
データ利活用プロジェクトでは、リスクを受け入れる姿勢と拒否する姿勢が、しばしばバランスを欠いています。その不整合が、「問題を調査する前にデータとAIという手段と成果目標が無根拠に決まっており、しかも成果目標を達成しないとプロジェクトが継続しない」という、前述した無謀なプロジェクト設計を生み出します。プロジェクトが論理的、構造的に矛盾している状況では、データや分析手法が解決策になることはありません。
プロジェクトの初期段階を成功させるには、リスクと成果のバランスの問題にリーダー層が気づき、受け入れることが必要です。
構想段階での、リスク管理の強化をぜひ検討してください。また、リスクに対する寛容さと、長期的な目標、短期的な目標の実現性との関係について再確認し、プロジェクトの位置付けについて理解をすり合わせることも大切です。プロジェクトの価値がポジショニングにあり、問題が未調査の場合、効果測定自体が的を得ない考え方になります。一方で合理化のような具体的な成果を短期的に求めるなら、プロジェクトの問題はほとんど解明されている必要があります。
例えば、マネジメントとデータの経験を持つプロフェッショナルを、主要なリーダーのバックエンドに配置するか、プロジェクトの構想段階で1名追加すれば、少ないコストで事態は大きく改善するはずです。逆に、後からツールやデータやメンバーに投資しても、効果は期待できません。
そのプロフェッショナルがリスクを見抜き、構造的な無理を指摘することで、リーダー層は、目的を優先しリスクを受け入れる方向に進むのか、リスクを避けてテーマを再検討するのか、といった戦略的な判断が可能です。無駄な投資や、チャンスの逸失を抑えることができます。